未来のドクタープロジェクト

もし、自分の子どもが将来医師を目指すとしたら、家族はそのために何ができるのでしょうか?

ここでは、家族を一つのチームとしてとらえ、親と子・夫と妻のコミュニケーションを通して家族一丸となってゴールを目指すための方法をお伝えしていきます。

 

どうする? 塾とのつき合い方

今回は医学部合格に向けてのパートナーである学習塾に注目しました。

受験生と学習塾、そして両親が三位一体になり最大限の成果を発揮していくためには何が大切なのか?

普段はなかなか知り得ない"指導者としての考え方や背景”まで踏み込んだ、内容の濃い対談をお届けします。

【特集】対談 次世代のドクターを目指すために

藤田博人(ふじたひろと)

池袋理数セミナー代表・化学科主任

大学受験塾指導にて約25年間、生徒指導に携わる。1995年、池袋にて医学部・難関大学専門の個別指導塾を開業。これまでに2000人以上の生徒を合格に導いている。

一人一人に適切な指導効果がある塾として、生徒の学力面だけではなく、人間的成長に着目した指導を実践。

保護者・生徒・塾との連携に重点を置き、塾激戦区の池袋において口コミで生徒が集まる塾を実現させた。また、学校教育でもアドバイスを求められ、医学部コース・東大コースの設置にも携わる。

代表自ら生徒指導を行うことで、地に足の着いた指導ノウハウを構築していくとともに、さらに効果の高い指導方法の研究にもつなげている。

 

主な合格実績:東京大学理科Ⅲ類、千葉大学医学部、慶應義塾大学医学部、東京慈恵会医科大学、順天堂大学医学部、その他、国公立医学部、私立医学部など多数。

 

 

 

 

 

~ 医学部受験の指導で大切にしていること ~

M:今回は、医学部受験における塾と家庭のパートナーシップをメインでお聞きしたいのですが、その前にぜひお伺いしたいことがあるんです。おそらく先生は医学部受験に対して、もうちょっと大きな枠の概念をお持ちかなと思っているんですね。特に人を育てるという点で。

 

F: そうですね。ただ単に医学部に合格させるということではなく、一番の根本は社会貢献ですね。社会貢献というのは結局一人ではできませんし、社会貢献をする人材を育てていきたいと考えています。

 

 :そこからなんですね。先生のご指導、本当に熱いですものね。

 

F塾講師としての活動を始める前のボランティア団体の立ち上げの経験などから、社会とのつながりというのかな、人は一人では生きていけないと実感したんです。

 

:先生のキーワードですね。

:塾講師というのは、何かきっかけみたいなものはあったんですか?

 

F:そうですね。きっかけは、色々あるんですけど家庭教師が最初ですね。高校の後輩の親御さんから家庭教師をして欲しいと頼まれたんです。

 

いざやってみると、相手から感謝されることはもちろんですが、こちらが教えてあげたつもりが逆に教えられていることが多いということに気づいたんです。お金を頂いて逆に勉強させてもらえる。こんな有り難いことないなと。そういう風に気づけたのは、自分の親の影響が大きいと思いますね。

 

:親御さんの影響とおっしゃいますと?

 

F:私の父は、幼少期から「気が利く子になりなさい」というのを口すっぱく言っていたんですよ。「お前、気が利かないな」としょっちゅう怒られたりしていました。気が利くということは、物事の背景や相手の気持ちなどを敏感に察知しないといけないですからね。その教えがあったからこそ、この仕事の本当の面白さに気づけたんだと思います。

 

M;今の医療の世界でも、最高のホスピタリティをと頑張っている医療機関では必ず気配りとか、気が付くということを盛んに教育していますね。アンケート調査などでもものすごく主観的な観点で「気配りを感じられたかどうか」ということを尋ねています。

その教えをご両親様からされていたということですね。

 

F:たぶんそうでしょうね。わたしも気を利かせようなんて思ったことはないんですけど、やっている。それはおそらく幼少期からの教えが良かったのかなと思います。気配りをして、感謝されるとこちらも嬉しくなるので、お金では得られないものをいっぱい頂きましたね。

医療はそれの最たるところかなと思います。

 

~ 家庭と塾の連携の必要性とポイント ~

 

: 医学部受験においての家庭と塾とのパートナーシップ、これは大前提として必要だと思っているんですが、先生のご経験からポイントや必要性について伺えますか?

 

F:パートナーシップにおいて最も大切なのは信頼関係です。特に保護者と我々塾の講師との信頼関係が一番重要ですね。そうでないと、生徒を導くことができないと思っていますので。保護者の中には塾にどこまで話すか迷う方もいます。だけどお互いに包み隠さず、もうプライドも全部捨てて頂いて、腹を割って話をしていくことですね。

 

これは社会的に立場がある方ほど難しいです。お父さんは客観的立場で、そしてお母さんは子どもに近い立場で腹を割って色々話しをしていただけると、そこから本当の指導がスタートできると思っています。

 

M:なるほど。先生が考えられる受験指導というのはまずはそのご家庭との信頼関係が基盤となった上でスタートするということですね。

 

F:そうですね。正直、我々もその方が子どもの状況を率直に把握できますし、状況を把握しきれていないのに頑張れば受かるとか社交辞令ばかり話していても意味がありませんからね。ですから、我々も親御さんに対して生徒の状況や塾としての考えなどを率直に言わせて頂きますと事前にお伝えしています。

 

R:色んなご家庭がある中で、塾と家庭の率直な意見交換が上手くいかない時もありませんか?

 

F:ありますね。うまくいかない例としては、子どもの弁護にご両親が走ってしまうケースです。例えば遅刻をした時に本人と塾とのやりとりよりもお母さんが色々言い訳を言ったりするようなことですね。自分の子どもが叱られるのはかわいそうだとご両親が全面的に擁護に走ってしまわれることがあります。

 

もう一つは子どもに対して問題点をばかり指摘する「あの子はダメだから」というケース。

つまり、親が守り過ぎても、反対に自分の子を落としても上手くいきませんね。

 

M:そのような時には塾としてどう対応なさるのですか?

 

F:上手くいかないことがあった場合には、事実として何が起きているのかをご両親と確認します。またお子さんの指摘ではなくて何を期待しているのかという観点で関わることを大切にしています。いろんな事を隠されてしまうと本当に必要な指導方針が立ちませんし、結局のところそれでは成果が出にくいのです。

 

M:それは患者さんとドクターのコミュニケーションにおいても同様ですよね。最初のメディカルインタビューで両者のコミュニケーションによって本来必要な治療計画を効果的に立てられるかということも変わってくると思うのです。

 

 

 

~ 受験生のご両親へのメッセージ ~

M:将来、医師を目指すお子様を持つご両親にむけて先生からメッセージがあればお願いします。

 

F:子どもの力を全面的に信じてほしいですね。子どもが自分のことを信じられるには親が子どものことを信じてあげなければいけません。そうでないと子どもが自分自身を信じられるわけがないですよね。ひいてはご両親がご自身を信じていることが大前提になります。そのことが医師になった時に患者さんとの関係に大きく関わってくると思います。

 

自分の心と体の関係を大切にしながら子どもを育てていくことは、ご両親だけでは大変なところもありますので、そこは塾と一緒になってやっていくという意識が大切だと思います。

 

子育てだけでも大変な上に、医学部受験も非常に難関ですので、親として多少ぶれてもいいんですが、子どもを信じるというところに立ち戻れること、これがポイントですね。

 

M:そのことが、医師になっても目の前の患者さんのことを信じられるということにもつながりますよね。

 

~ 医師を目指す学生に対してのメッセージ ~

M:医師を目指す学生に対して、大切にしてほしいことはありますか。

 

F:人に感謝すること。本気で感謝できる、大切なことを大切にできる人間になってほしいと子ども達にも伝えています。

 

 M:「本気で」というのはどういうことでしょう?

 

F:言葉だけではなく、行動できるということです。

本気で感謝できれば、つらいことがあったとしても途中で投げ出さずに乗り越えられるものです。

 

M:親の立場から子どもがつらい状況になっている時に過剰に助け船を出して、子ども自身を被害者のようにしてしまうことがありますが。

 

F:そうですね。子どもにあえてつらい経験や失敗をたくさんさせることで、壁を乗り越える力を養わせることができると思います。最近は子どもがかわいそうと言ってそういった経験を親御さんが遠ざけようとするところもありますね。

 

M:その点を私の講座では「ヘルプとサポートの違い」としてご両親に伝えています。母親としては、子どもがかわいいので、どうしてもサポートではなく、ヘルプになってしまいがちなんですよね。

 

F:そうですね。うまくサポートをしてくださる保護者の生徒は、自分の行動に責任を持っているので、心が非常に安定していますね。また、そのような保護者だと塾との信頼関係も築きやすくなり、本当の意味での指導方針が立てるようになりますね。子どもも自分で色々と考え、実行できるようになると、親の苦労にも気づいて感謝するようになります。

 

M:先生のおっしゃる「本気で感謝」というのは社会に出ても本当に大切ですよね。社会に出れば自分の思い通りにいかない事はたくさんあるわけで、不平不満ばかり感じていたらそのことが行動として現れてしまいます。そのような人は周りから信頼を得にくい存在になってしまいますね。それでは、子どもは不幸になってしまう。人から信頼されるためにも、感謝を行動で示せるのは大切ですね。

 

M:最後に先生がこれだけはお伝えになりたいというメッセージをお願いします。

 

F:患者から感謝される、頼りにされる医師になるためには、自分自身がまず周りに本気で感謝しているかが大切だと思います。本気で感謝している人は、相手の立場に立って物事を考えられています。たとえ自分が厳しいことを言われて腹が立ったとしても、厳しいことを言ってくれた人はもっとつらい思いをしているのではと相手の立場、気持ちを想像しようとしているのかというところです。自分が本気で感謝をしていると、相手からも本気で感謝されます。

 

目先の自分の感情・立場ではなく、相手の気持ち、立場はどうなのかを常に考え、想像する。それができる医師は、患者からはもちろんのこと、周りの医師・看護師、すべての人から信頼を得ることができ、本当の意味での「医療」を提供できる人間になると信じています。

 

M:「人の育成」に携わるということで先生のお話にとても共感いたしました。本日はありがとうございました。